月次決算を毎月きちんと締めている会社でも、「数字が出るのが遅い」「出た数字をどう使えばいいか分からない」という声をよく聞きます。決算書は税理士に任せているから安心、と考えている経営者も少なくありませんが、年に一度の決算だけでは経営判断のタイミングを逃してしまいます。
月次決算は、毎月の経営状態を確認し、問題が小さいうちに対策を打つための仕組みです。しかし、中小企業では経理の専任担当者がいないケースも多く、どのように体制を整えればよいか迷う場面が多いのも事実です。
この記事では、月次決算を形だけでなく、経営判断に使える仕組みにするための体制づくりを解説します。担当者の役割分担、会計ソフトの入力ルール、税理士との連携方法まで、中小企業が明日から始められる実務手順を紹介します。
月次決算を回す体制の3つの要素
月次決算を経営に活かせる形で回すには、次の3つの要素を整える必要があります。
- 役割の明確化:誰が何をいつまでにやるのかを決める
- 入力ルールの統一:勘定科目や補助科目の使い方を揃える
- スケジュールの設定:月次決算を翌月の何日までに完成させるかを決める
これらが曖昧なまま「月次で数字を出してほしい」と税理士に依頼しても、タイミングが遅れたり、経営者が見たい数字と違う形で出てきたりします。まずは社内で「誰が何をするか」を整理することが第一歩です。
経理担当・税理士・経営者の役割分担
月次決算を回すには、社内の経理担当者、税理士、経営者の3者がそれぞれの役割を果たす必要があります。専任の経理担当者がいない場合でも、事務スタッフや総務担当が兼務する形で体制を組むことは可能です。
経理担当が担う業務
経理担当の役割は、日々の取引を会計ソフトに入力し、月末に締めて税理士に渡せる状態にすることです。具体的には次のような業務を担当します。
- 売上の確定(請求書の発行と消込)
- 経費の仕訳入力(領収書やクレジットカード明細の処理)
- 銀行口座の残高照合
- 証憑(請求書・領収書)の整理とファイリング
ここで重要なのは、月末の締め作業を「翌月5日まで」など明確な期限を決めて終わらせることです。期限を決めないと、入力が遅れて税理士の作業開始が遅れ、結果として経営者が数字を見るタイミングが月半ばになってしまいます。
税理士が担う業務
税理士の役割は、経理担当が入力したデータを確認し、税務上の判断を加えて決算書を完成させることです。具体的には次のような業務を担当します。
- 仕訳内容の確認と修正
- 勘定科目の適正化
- 減価償却費などの自動計算
- 月次の試算表(貸借対照表・損益計算書)の作成
- 経営者向けの報告資料の準備
税理士との契約内容によっては、月次決算のサポートが含まれていない場合もあります。事前に「月次で数字を出してほしい」「翌月10日までに報告がほしい」といった希望を伝え、対応可能かどうかを確認しておくことが大切です。
経営者が担う業務
経営者の役割は、税理士から上がってきた数字を確認し、経営判断に使うことです。具体的には次のような作業を行います。
- 前月との比較(売上・経費・利益の増減)
- 予算との差異分析(計画と実績のズレの確認)
- 問題点の洗い出し(予想外の経費増加や売上減少の原因)
- 対策の検討と現場への指示
月次決算の数字は、見るだけでなく「なぜこの数字になったのか」を考え、次月の行動に反映させることで初めて意味を持ちます。数字を見て終わりにせず、現場の担当者と共有し、改善策を話し合う場を設けることが重要です。
会計ソフトの入力ルールを統一する
月次決算を安定して回すには、会計ソフトの入力ルールを統一する必要があります。担当者が複数いる場合や、担当者が交代する場合でも、同じルールで入力できるようにしておくことで、データの精度が保たれます。
勘定科目の使い方を決める
勘定科目の使い方が人によって変わると、月ごとの比較ができなくなります。例えば、同じ「広告費」でも、ある月は「広告宣伝費」に入力し、別の月は「販売促進費」に入力してしまうと、数字の推移が正しく追えません。
次のようなルールを文書化しておくと、入力のブレを防げます。
- ウェブ広告は「広告宣伝費」、チラシ印刷は「販売促進費」
- 交通費のうち、営業活動は「旅費交通費」、社内移動は「雑費」
- 少額の消耗品は「消耗品費」、10万円以上の備品は「工具器具備品」
このルールは税理士と相談して決め、経理担当者が参照できる場所(社内のマニュアルや会計ソフトのメモ欄)に残しておきます。
補助科目を活用する
補助科目とは、勘定科目をさらに細かく分類するための項目です。例えば「外注費」という勘定科目の下に「デザイン外注」「システム外注」「物流外注」といった補助科目を設定すると、どの分野に外注費がかかっているかを把握しやすくなります。
補助科目を使う場合は、次の点に注意します。
- 補助科目の数を増やしすぎない(管理が煩雑になる)
- 補助科目の名前を統一する(表記ゆれを防ぐ)
- 補助科目を使う基準を決める(金額が大きい項目だけに使う、など)
補助科目は後から追加することもできますが、過去のデータを遡って修正するのは手間がかかります。最初に必要な補助科目を洗い出し、税理士と相談して設定しておくとスムーズです。
月次決算のスケジュールを決める
月次決算を経営判断に使うには、数字が出るタイミングが重要です。翌月の20日や月末に数字が出ても、すでに次の月が半分過ぎており、対策を打つタイミングを逃してしまいます。
理想的なスケジュールは、翌月10日までに月次決算を完成させることです。このスケジュールを実現するには、次のような流れで作業を進めます。
月末:経理担当が締め作業を開始
月末の時点で、経理担当者は次の作業を完了させます。
- 売上の確定(請求書の発行と入金確認)
- 経費の仕訳入力(領収書やカード明細の処理)
- 銀行口座の残高照合
この時点で、会計ソフト上の残高と実際の銀行残高が一致していることを確認します。ズレがある場合は、未入力の取引や仕訳ミスがないかを確認します。
翌月5日:税理士に資料を送付
翌月5日までに、経理担当者は税理士に次の資料を送ります。
- 会計ソフトのデータ(クラウド型の場合は共有済み)
- 証憑類(請求書・領収書のスキャンデータまたは原本)
- 特記事項(大きな取引や判断に迷った仕訳があれば報告)
税理士との連絡は、メールやチャットツールで行います。毎月決まった日に送ることで、税理士側もスケジュールを組みやすくなります。
翌月8日:税理士が決算書を完成
税理士は、受け取ったデータを確認し、翌月8日までに月次の試算表を完成させます。この時点で、勘定科目の修正や減価償却の計上など、税務上の調整が入ります。
税理士によっては、経営者向けに前月比や予算比のグラフを付けた報告資料を作成してくれる場合もあります。こうした資料が必要な場合は、契約時に依頼しておきます。
翌月10日:経営者が数字を確認
翌月10日までに、経営者は月次決算の数字を確認します。確認すべきポイントは次のとおりです。
- 売上は前月・前年同月と比べてどうか
- 経費に予想外の増加はないか
- 利益は予算と比べてどうか
- 現預金の残高は十分か
問題点が見つかった場合は、現場の担当者と共有し、原因を確認します。例えば、広告費が予算を大きく超えている場合は、広告の効果測定を行い、次月の投下金額を調整する、といった対策を検討します。
月次決算を回すために必要な会計ソフトの選び方
月次決算を回すには、会計ソフトの選び方も重要です。中小企業で使いやすいのは、クラウド型の会計ソフトです。クラウド型のメリットは次のとおりです。
- 税理士とリアルタイムでデータを共有できる
- 銀行口座やクレジットカードと連携し、自動で仕訳候補を作成できる
- スマートフォンからも入力できる
- バージョンアップが自動で行われる
主なクラウド会計ソフトには、freee、マネーフォワードクラウド、弥生会計オンラインなどがあります。それぞれ操作画面や機能が異なるため、税理士が対応しているソフトを確認したうえで選ぶとスムーズです。
また、会計ソフトを導入する際は、過去のデータをどこまで遡って入力するかを決めます。通常は、導入月から入力を始め、前年同月比を見たい場合は前年度のデータも入力します。過去のデータは税理士が持っている場合が多いため、相談して取り込み方法を決めます。
税理士との連携をスムーズにする方法
月次決算を回すには、税理士との連携が欠かせません。しかし、税理士との契約内容によっては、月次決算のサポートが含まれていない場合もあります。次のような点を確認しておくと、連携がスムーズになります。
月次決算の対応可否を確認する
税理士によっては、年次の決算申告のみを業務範囲としている場合があります。月次決算を依頼する場合は、追加料金が発生するか、対応可能なスケジュールはどの程度かを事前に確認します。
もし現在の税理士が月次決算に対応していない場合は、別の税理士に切り替えることも選択肢です。ただし、税理士の変更は年度の切り替わりのタイミングで行うのが一般的です。
連絡手段とスケジュールを決める
税理士との連絡は、メールやチャットツールで行います。毎月決まった日に資料を送る、といったルールを決めておくと、税理士側もスケジュールを組みやすくなります。
また、分からない仕訳があった場合にすぐ質問できる体制を整えておくことも大切です。月末にまとめて質問するのではなく、日常的に小さな疑問を解消しておくことで、月次決算の精度が上がります。
報告資料の形式を相談する
税理士が作成する月次の試算表は、標準的な形式(貸借対照表と損益計算書のPDF)で提供されることが多いですが、経営者が見たい形式と異なる場合もあります。
例えば、次のような資料があると経営判断がしやすくなります。
- 前月比・前年同月比のグラフ
- 予算と実績の差異分析表
- 部門別の損益
こうした資料が必要な場合は、税理士に依頼するか、自社で会計ソフトのレポート機能を使って作成します。税理士に依頼する場合は、追加料金が発生する可能性があるため、事前に確認しておきます。
月次決算を経営判断に使うための習慣
月次決算の数字が出ても、見るだけで終わってしまっては意味がありません。数字を経営判断に使うには、次のような習慣を作ることが大切です。
毎月決まった日に数字を確認する
月次決算が完成したら、毎月決まった日に経営者と経理担当者、必要に応じて部門長が集まり、数字を確認する時間を設けます。この会議では、次のような項目を確認します。
- 売上の前月比・前年同月比
- 経費の増減とその理由
- 利益の予算達成率
- 現預金の残高と今後の資金繰り
会議の時間は30分〜1時間程度で十分です。長時間の会議にすると、参加者の負担が大きくなり、継続が難しくなります。
問題点を見つけたらすぐに対策を検討する
月次決算の数字を見て問題点が見つかった場合は、すぐに対策を検討します。例えば、次のような問題があった場合、それぞれ対策を考えます。
- 売上が前月より10%減少している → 営業活動の見直し、商品ラインナップの再検討
- 広告費が予算を20%超過している → 広告の効果測定、投下金額の調整
- 現預金が減少している → 売掛金の回収状況確認、支払いスケジュールの見直し
対策を検討したら、担当者を決めて実行します。次月の月次決算で、対策の効果を確認し、うまくいかなければ別の方法を試します。
予算と実績を比較する
月次決算を経営判断に使うには、予算を立てておくことが重要です。予算がないと、数字が良いのか悪いのか判断できません。
予算は、前年の実績をベースに、今年の売上目標や経費の見込みを加えて作成します。最初から完璧な予算を作る必要はなく、まずは大まかな数字でも構いません。月次決算を回しながら、予算の精度を上げていきます。
月次決算を回すうえでのよくあるつまずき
月次決算を始めてみても、うまく回らないケースがあります。よくあるつまずきと対策を紹介します。
入力が遅れて数字が出るのが遅くなる
経理担当者の入力が遅れると、税理士の作業開始が遅れ、結果として経営者が数字を見るタイミングが遅くなります。入力が遅れる原因は、次のようなものがあります。
- 領収書やレシートが経理担当者に届くのが遅い
- 経理担当者が他の業務と兼務していて時間が取れない
- 会計ソフトの使い方が分からず、入力に時間がかかる
対策としては、次のような方法があります。
- 経費精算のルールを決め、毎月決まった日までに領収書を提出させる
- 経理業務の時間を週に2〜3回、固定で確保する
- 会計ソフトの研修を受ける、または税理士に操作方法を教えてもらう
数字が出ても見方が分からない
月次決算の数字が出ても、経営者が見方を理解していないと、経営判断に使えません。貸借対照表や損益計算書の見方が分からない場合は、税理士に基本的な読み方を教えてもらうとよいでしょう。
また、税理士に依頼して、経営者向けに分かりやすい資料を作成してもらう方法もあります。例えば、売上や利益の推移をグラフにした資料や、前月との比較表などがあると、数字の変化が把握しやすくなります。
税理士との連携がうまくいかない
税理士との連携がうまくいかない場合、次のような原因が考えられます。
- 税理士が月次決算に対応していない
- 資料の提出が遅れている
- 税理士とのコミュニケーションが不足している
対策としては、まず税理士に月次決算の対応可否を確認し、対応可能な場合はスケジュールと連絡方法を決めます。資料の提出が遅れている場合は、社内の締め作業のスケジュールを見直します。
また、税理士とのコミュニケーションを増やすことも大切です。月次決算の報告時だけでなく、日常的に小さな疑問を質問することで、信頼関係が深まり、連携がスムーズになります。
まとめ
月次決算を経営判断に使える形で回すには、役割の明確化、入力ルールの統一、スケジュールの設定が必要です。経理担当者、税理士、経営者の3者がそれぞれの役割を果たし、毎月決まったタイミングで数字を確認する習慣を作ることで、問題が小さいうちに対策を打てるようになります。
月次決算は、年次の決算とは異なり、経営の現在地を確認するための道具です。完璧な数字を求めるのではなく、まずは「翌月10日までに数字を出す」という目標を設定し、少しずつ精度を上げていくことが大切です。
株式会社S&K Consultantでは、月次決算の体制づくりや会計ソフトの導入支援、税理士との連携サポートを行っています。月次決算を回す仕組みを整えたい、数字を経営判断に使えるようにしたいとお考えの経営者の方は、経営コンサルティングサービスのページをご覧いただくか、お問い合わせフォームからご相談ください。
