生成AIを業務に取り入れると、資料の下書きや情報の整理を短時間で進められるようになります。しかし「思ったような回答が返ってこない」「何度も指示を出し直すうちに時間がかかってしまう」という声もよく聞かれます。こうした状況の多くは、AIへの指示(プロンプト)の出し方を少し工夫するだけで改善できます。
この記事では、中小企業の実務担当者が生成AIを使う際に押さえておきたいプロンプトの基本的な組み立て方と、よくあるつまずきを避けるための具体的な手順をお伝えします。
プロンプトとは何か|AIへの指示の役割
プロンプトとは、生成AIに対して出す指示や質問のことです。チャット形式のツールであれば、入力欄に打ち込む文章がそのままプロンプトになります。
AIは与えられた指示をもとに回答を生成しますが、人間同士の会話とは異なり、背景や文脈を自動で補うことはできません。そのため「提案書を作って」とだけ伝えても、用途や分量、盛り込むべき内容が分からず、実務では使えない抽象的な回答が返ってくることがあります。
逆に、目的や条件を明示することで、修正の手間を減らし、短時間で実用的な成果物を得られるようになります。プロンプトは、AIの回答の精度を左右する重要な要素です。
曖昧な指示が使えない回答を生む理由
実務でAIを使い始めた方からよく聞かれる不満の一つが「回答が曖昧で使えない」というものです。この原因の多くは、指示そのものが曖昧であることにあります。
たとえば「新商品の紹介文を書いて」という指示は、一見すると具体的に見えますが、次のような情報が欠けています。
- 紹介文を誰に向けて書くのか(既存顧客か、新規顧客か、業界関係者か)
- どこで使うのか(ウェブサイトか、営業資料か、SNSか)
- どのくらいの長さが必要か(100文字か、500文字か)
- 商品のどの点を強調したいのか(価格、機能、導入の手軽さなど)
これらの情報がないまま指示を出すと、AIは汎用的な表現を並べた回答を返すことになります。その結果、受け取った文章を大幅に書き直す手間が発生し、かえって時間がかかってしまいます。
AIは指示に含まれていない情報を推測することはできません。使える回答を得るためには、指示を出す側が必要な情報を明示する必要があります。
プロンプトを組み立てる3つの手順
実務で使えるプロンプトを作るには、次の3つの手順を順に確認しながら指示を組み立てていくと効率的です。
手順1: 目的を書く
最初に、生成する文章や情報を「何のために使うのか」を明示します。目的が分かると、AIは適切なトーンや構成を選びやすくなります。
たとえば、次のように書きます。
- 「新規取引先への提案書に使う導入事例の文章を作成してください」
- 「社内向けの業務マニュアルに載せる手順の説明を書いてください」
- 「採用ページに掲載する会社紹介の文章を作成してください」
目的を書くことで、AIは読み手や使う場面を想定した回答を返しやすくなります。
手順2: 条件を並べる
次に、生成する内容に関する具体的な条件を列挙します。条件には、分量、含めるべき要素、トーン、避けたい表現などが含まれます。
たとえば、次のように指定します。
- 「400文字以内で、導入前の課題と導入後の効果を含めてください」
- 「丁寧な表現で、専門用語は使わずに書いてください」
- 「箇条書きで5項目にまとめてください」
- 「断定的な表現は避け、『〜と考えられます』のような柔らかい表現を使ってください」
条件を明示することで、回答の方向性が絞られ、修正の手間が減ります。
手順3: 形式を指定する
最後に、出力の形式を指定します。箇条書き、表、見出し付きの文章など、実務でそのまま使える形で出力してもらうことで、加工の手間を省けます。
たとえば、次のように指定します。
- 「見出しを3つ付けて、それぞれ150文字程度で説明してください」
- 「表形式で、項目名と説明を並べてください」
- 「箇条書きで、各項目に補足を1行ずつ添えてください」
形式を指定することで、受け取った回答をそのまま資料に貼り付けられる状態に近づけることができます。
実務でよくある場面ごとのプロンプト例
ここでは、中小企業の実務でよく使われる場面ごとに、具体的なプロンプトの例を紹介します。これらの例を参考に、自社の状況に合わせて調整してください。
営業資料の下書きを作る
「新規取引先向けの提案書に載せる、当社のサービス紹介文を作成してください。A4で1枚、導入事例を1つ含めて、導入のメリットを3つ挙げてください。丁寧な表現で、専門用語は避けてください。」
社内向けの手順書を作る
「新入社員向けの業務マニュアルに載せる、経費精算の手順を説明する文章を作成してください。手順を箇条書きで5項目にまとめ、各項目に補足を1行ずつ添えてください。分かりやすく、簡潔な表現で書いてください。」
メールの下書きを作る
「取引先への納期延長のお願いメールを作成してください。300文字以内で、理由を簡潔に述べ、代替案を1つ提示してください。丁寧で謝罪の気持ちが伝わる表現を使ってください。」
会議の議事録を整理する
「次の会議の録音から書き起こした文章を、議事録の形式に整理してください。決定事項、保留事項、次回までの宿題に分けて、箇条書きで書いてください。各項目は1行で簡潔にまとめてください。」
これらの例に共通するのは、目的・条件・形式の3つを明示している点です。この構造を保ちながら、自社の業務に合わせて言葉を置き換えていくことで、実務で使えるプロンプトを作ることができます。
回答の精度を上げるための追加の工夫
基本的なプロンプトの組み立て方を押さえた上で、さらに回答の精度を上げるために試せる工夫をいくつか紹介します。
例を示す
「こういう形で書いてほしい」という例を示すと、AIは求められている形式やトーンを理解しやすくなります。たとえば、過去に作成した資料の一部を引用して「この形式で書いてください」と指示すると、似た構造の文章を生成してもらえます。
段階的に指示を出す
複雑な文章を一度に作ろうとすると、AIの回答が発散してしまうことがあります。そのような場合は、まず見出しだけを作ってもらい、次にそれぞれの見出しの内容を書いてもらうというように、段階を分けて指示を出すと、構成が整った文章を得やすくなります。
修正の指示を具体的に出す
最初の回答が期待と異なる場合は、「もっと丁寧に」といった曖昧な指示ではなく、「『〜してください』という表現を『〜いただけますでしょうか』に変えてください」のように、具体的な修正指示を出すと、短時間で求める形に近づけることができます。
生成した文章を自分で確認する
AIが生成した文章は、必ずしも事実と一致するとは限りません。特に数値や固有名詞、制度の内容などは、生成後に必ず確認し、必要に応じて修正してください。AIはあくまで下書きを作る道具であり、最終的な責任は人が負います。
プロンプトを記録して再利用する
実務でよく使うプロンプトは、テキストファイルやドキュメントに保存しておくと、次回以降の作業を効率化できます。たとえば、営業資料の下書き、議事録の整理、メールの返信など、繰り返し発生する業務ごとにプロンプトのひな型を作っておくと、毎回ゼロから指示を考える手間が省けます。
ひな型を作る際は、目的・条件・形式の3つを含めた形で保存し、使うたびに必要な部分だけを書き換えるようにすると、安定した品質の回答を得やすくなります。
また、複数の担当者でAIを使う場合は、社内で共有できる場所にプロンプト集を置いておくと、チーム全体の作業効率が上がります。
AIの回答を鵜呑みにしない姿勢
生成AIは便利な道具ですが、完璧ではありません。回答に含まれる情報が正確かどうかを確認する責任は、利用者にあります。特に、対外的に公開する文書や、社内の意思決定に関わる資料を作る際は、生成された内容を必ず人が確認し、必要に応じて修正してください。
また、AIに指示を出す際に機密情報や個人情報を含めないよう注意が必要です。入力した内容がサービス提供者のサーバーに保存される場合があるため、社内で定めた利用ルールを守りながら使うことが重要です。AIの利用ルールについては、社内でAI利用ルールを作るときの5つの論点で詳しく解説しています。
まとめ
生成AIから実務で使える回答を得るためには、曖昧な指示ではなく、目的・条件・形式を明示したプロンプトを組み立てることが重要です。最初は手間に感じるかもしれませんが、繰り返し使ううちに、短時間で適切な指示を出せるようになります。
まずは、自社でよく発生する業務を一つ選び、今回紹介した3つの手順に沿ってプロンプトを作ってみてください。生成された回答を確認し、必要に応じて指示を調整することで、自社に合ったプロンプトのひな型が徐々に蓄積されていきます。
株式会社S&K Consultantでは、中小企業の業務効率化を支援するコンサルティングサービスを提供しています。AIの導入支援や、社内での活用方法の整理についてもご相談を承っています。ご関心のある方はお問い合わせページからご連絡ください。
